« 2015年2月 | トップページ | 2015年4月 »

ワールド・ウォーZ

 ホラーは嫌いだが、SF寄りのホラーなら許容範囲である。そういうわけで小説『ワールド・ウォーZ』は、よくできたアポカリプスものであった。一方、映画のほうは「ゾンビが出てくるだけのアクション大作」という評判であるが、数日前に観た『ラブ・アクチュアリー』が甘口すぎたんで、口直し的な意味で観てみた次第である。

 以下、ネタバレ注意。

 ……評判どおりだったねえ。てゆうか、『アナと雪の女王』以上に原作が影も形もないよ。「ゾンビ=疫病」設定の映画なんていくらでもあるんだから、オリジナルでいいじゃん。『ワールド・ウォーZ』を原作としてクレジットする意味がどこにあるんだ(そこまで知名度が高いわけじゃあるまい)。
「発生源は中国で、人民政府が隠蔽したために感染が拡大した」という設定がカットされたのは中国市場を考慮すれば当然のこととして、せめて群像劇にできなかったのか。主演は作品選びが巧いブラッド・ピットだし、監督もマーク・フォースターだというのに、まさに「凡庸な大作」という形容が相応しい。

 原作はバイオハザードもの(文字どおりの意味でのバイオハザード)としてもよくできていたが、映画は『コンテイジョン』の足許にも及ばん。
 アクションないしスリラーとしてもねえ、あまりに捻りのない展開に、途中から「どうせ主人公は助かるんだろ」と達観してしまい、そしてその予想は最後まで裏切られないのであった(その点でも『コンテイジョン』より劣る)。
 ちなみにホラーが嫌いなんで、これまでに観たことのあるゾンビ映画は、『バイオハザード』が何本かと、『プラネット・テラー』と『コンヴェント』だけだが、ゾンビ・アクション映画としては『バイオハザード』一作目には遥かに及ばないし、『プラネット・テラー』や『コンヴェント』のように笑いどころもない。いや、『コンヴェント』の笑いは明らかに意図したものではないんだが。

 このブログは原則として、褒めるところのない映画の感想は上げません。時々例外もありますが、今回は例外ではなく、褒めどころはあります。映画と比べることで原作のおもしろさが引き立つ、という点が。
 

|

ラブ・アクチュアリー

  群像劇で恋愛もの。まあ恋愛だけでなく、友情や義理の親子の愛情も入ってるけど。ハリウッドでも有名な英国俳優が顔を揃えて、母国でのびのびやってる感じが楽しい。

 とにかく登場人物が多くて、かつ三角関係の割合が少ないので、多数の物語が同時進行することになる。その結果、物語一つ一つは随分切り詰められているのだが、私のように普通の恋愛ものはタルくて観てられん、という人間にはちょうどよかったです。
 十年も前の映画なのに、マーティン・フリーマンが全然変わっとらん。昔から童顔なのか老け顔なのかわからんタイプだったんだな。

|

アメリカン・スナイパー

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、マーティが50年代のドクに、当時大根役者だったレーガンが80年代には大統領になっていると言ったら信じてもらえなかった、という挿話がある。60年代のアメリカ人に、「21世紀にはクリント・イーストウッドは名優にして名監督で、アカデミー賞の常連になってる」と言っても、同じく誰も信じないのは間違いない(イーストウッド本人も含め)。70、80になっても現役で大活躍、というとこだけでも、半世紀前には空想物語だね。

 というわけで『アメリカン・スナイパー』。実話なんでネタバレもクソもないが、以下ノ文章デハ作品ノ結末ニ触レテイルノデ御注意クダサイ。
「伝説のスナイパー」カイル・クリスは典型的なテキサスのレッド・ネックで、「アメリカの正義」を信じて疑わない。戦場の現実(なんか陳腐な表現で申し訳ない)に放り込まれても、PTSDに苦しめ続けられてもなお、「正義」にしがみ付き続ける。
 イーストウッドは、そんなクリスの矛盾を深く追及しようとはしない。そもそも、イラク戦争そのものがでっち上げで始められたということに言及すらしていない。本作が右翼映画だと批判および称賛されるのは、そうしたことが主な原因だろう。

 しかし、クリスが初陣でいきなり幼い少年を射殺するか否かの判断を迫られるという事実、自身や他の兵士や元兵士がPTSDに苦しめられるという事実、退役後の彼が元兵士の社会復帰に尽力したという事実、その一人に殺されるという事実そのものが、イラク戦争とアメリカの本質を表している。そしてイーストウッドは、それらの事実を克明に描くことで観客に問い掛けているのだろう(で、その結果が戦意高揚映画扱いなわけだけど)。

 戦意高揚映画扱いの今一つの原因は、戦闘場面を「かっこよく」描いてることだろう。いや、私は中東の陰惨な状況が念頭を去らなかったので、かっこいいとは到底思えなかったんだが、とにかく迫力というか異様な緊張感に満ちているので、それをかっこいいと思う人もいるでしょう。
 実際にドンパチやってる場面だけでなく、前線での場面ではずっとこの緊張感が続いていて、しかも2時間半近い尺のうち少なくとも3分の2を前線場面が占める。戦闘場面のある映画は結構観てるほうだと思うけど、イーストウッド自身の映画も含めて、これだけ緊迫感のある戦闘場面が続く映画は初めてだ。
 かてて加えて戦地以外の場面でも、中盤以降は主人公のPTSDが悪化し、いつ「壊れる」かわからない別種の緊張が漲ることになる。
 ちょっと、なかなか、しんどい映画でしたね。お蔭で2時間半もあっという間でしたが。

 それにしてもイーストウッドは凄いなあ。「相変わらず」凄いんじゃなくて、「ますます」凄いというのが恐ろしい……いくら優秀なスタッフ陣に支えられてるにしたってね。超人か。てゆうか、冒頭に少年の射殺シーンを持ってくるって、容赦なさすぎ。

続きを読む "アメリカン・スナイパー"

|

ル・ブレ

 2002年作品。パリのあちこちに『旅の仲間』のポスターが。別に、国策で国産映画をもり立てようとしてるのにハリウッド映画に押され続けているフランスへの風刺とか、そんなんではないと思う。

 犯罪王トルコ(この綽名の由来は説明されない)の弟が警察の犬であることを知った一匹狼のモルテスは、トルコの目の前で弟を射殺。その直後に逮捕される。
 数年後、モルテスは模範囚として仮釈放間近となるが、その前に宝くじの当選番号発表を楽しみにしていた。モルテスの宝くじは看守レジオが預かり、レジオはそれを自分の妻に預けている。
 番号発表の前日、レジオは妻と最近うまくいっていないことをモルテスに相談。そのアドバイスに従った結果、妻は怒り狂ってアフリカへ旅立ってしまう。
 翌日、モルテスは見事、宝くじに当選。しかしレジオは欠勤。宝くじを持ったまま出て行った妻に、死に物狂いで連絡を取ろうとしていたのだが、持ち逃げされたと思い込んだモルテスは、脱獄してレジオの家を急襲。折しもトルコが釈放され、モルテスへの復讐を開始しようとしていた――

 フランス映画は概してアクションが「まったりしている」というイメージなのだが(ベッソンもハリウッドで撮るとそんなことないのに、祖国で撮るとまったりする)、これは特にそういう感じはなく、テンポが良かった。……いや、テンポがいいとか悪いとかは、単にこちらの「慣れ」の問題なのかもしれないんで、ハリウッド式が絶対基準みたいな言い方はすべきじゃないんだろうけど。
 まあとにかく、コメディとしてもフランス映画にありがちな要らんひねりもなく、素直におもしろかったです。

| | トラックバック (0)

ビッグ・アイズ

 この夫婦のエピソードも「ビッグ・アイズ」のイラストも全然知らなかったんだが、これを観た数日後、偶々読んだロン・グーラートの『ゴーストなんかこわくない』。オカルト探偵が主人公の連作なんだが、その第1話に「巨大な目玉の子供の絵」を「合作する夫婦」が登場というか言及されていた。別の話には、「なぜか大人気の素人くさい絵が、実はゴースト・ペインターによって描かれていた」というエピソードも。
 邦訳が出たのは2006年だけど、書かれたのは60年代初め~末。
 本物の「ビッグ・アイズ」の作者マーガレット・キーンが真相を告白したのは70年で、それまでは夫のほうが作者だということを誰も疑わなかったようだけど、ひょっとしたら短編の名手グーラートは何か察していたんだろうか、とか思ったり。

 とんでもない嘘つき夫を演じたのがクリストフ・ヴァルツ。違う役者だったら、映画そのものも違う出来になっていただろう。『イングロリアス・バスターズ』と『ジャンゴ』の喋りまくる役で頭角を現した役者だが、本作でも喋りまくり。まさに独演会。
 映画で描かれているウォルター・キーンという男はとにかく嫌な奴で、妻に対する仕打ちもひどいものなので、陰鬱な話になってしまいかねないのが、不思議とそうなっていない。ヴァルツの演技に負うところが大きい。

 妻のマーガレットがウォルターの言いなりになってしまったのは、おとなしくて人が好い性格だからというのに尽きるのだろう。演じるのはエイミー・アダムズで、『ザ・マスター』の「一見従順な妻だが、実は夫を支配し操ろうとする野心家」とはまったく違ったキャラクターを見せている。ヴァルツに比べてどうしても地味だが、彼女の演技もたいへん巧い。すごくつらい思いをしているのが伝わるけれど、陰鬱な雰囲気にはなっていない。

 ファンタジーを封印した実話の映画化は『エド・ウッド』以来だけど、「事実は小説より奇なり」を地で行くのは、いかにもティム・バートンらしい。冒頭、道路わきに曲がりくねった巨木が立っているカットがあるが、曲がりくねった木はバートン作品によく出てくるから、あれは「バートン印」ということでいいのかな。

|

ゴーン・ガール

 結婚5周年の記念日に、妻が失踪する。家の中には争った形跡と血痕。捜索が続くうち、夫に疑惑が向けられる。

 以下、ネタバレ注意。
 サイコ・サスペンスかと思ったら、サイコ・ホラーでした。それはともかく、妻が夫に対し、そこまで強い怒りを抱いた理由が今いちはっきりせん。その主な原因は、回想場面が妻の日記の映像化で、その日記が嘘八百だからである。

 全部が嘘というわけではない。出会ってから結婚までの経過は、嘘は混じっていないだろう(結婚後、夫がいかに駄目になったかを強調するために、結婚前のことがことさらに理想化されている可能性はあるが)。しかしその後は、どこまで「事実」なのか、観客が知る手掛かりはほぼない。
「理想の女」でいることを要求する男の身勝手さを糾弾する妻の独白と、終盤の夫の「お互いを支配しようとして傷つけ合っている」という台詞から、妻の怒りの原因は夫の浮気だけじゃないことがなんとなくは察せられるが、具体的には全然表現されてない。
 これじゃあ、「どんな女も結婚後には抱きかねない怒り」ではなく、単にこの妻がサイコパスだったから、としか見えない。夫役のベン・アフレックの、結婚前のいい男ぶりと「現在」の駄目男ぶりの落差は結構なものではあるけれど。

 という難点はあるものの、一作ごとに良くなるデヴィッド・フィンチャーは、今回も期待を裏切りませんでした。ベン・アフレックの駄目さとか、荒れ果てたミズーリの小都市とか。大人になったねえ。

 ベン・アフレックの木偶の坊ぶりは、地ではなくて役作りでしょう。『アルゴ』の時は木偶の坊には見えなかったから。
 ロザムンド・パイクは『ダイ・アナザー・デイ』と『リバティーン』しか観てないが、え、1979年生まれ? ってことは、『リバティーン』の時は20代半ばで、ボンド・ガールの時は20代前半? 
 ……えらい老けてるっていうか、貫録あるっていうか……今は女優らしく、実年齢より若く見えますが。
 

|

« 2015年2月 | トップページ | 2015年4月 »