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アメリカン・スナイパー

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、マーティが50年代のドクに、当時大根役者だったレーガンが80年代には大統領になっていると言ったら信じてもらえなかった、という挿話がある。60年代のアメリカ人に、「21世紀にはクリント・イーストウッドは名優にして名監督で、アカデミー賞の常連になってる」と言っても、同じく誰も信じないのは間違いない(イーストウッド本人も含め)。70、80になっても現役で大活躍、というとこだけでも、半世紀前には空想物語だね。

 というわけで『アメリカン・スナイパー』。実話なんでネタバレもクソもないが、以下ノ文章デハ作品ノ結末ニ触レテイルノデ御注意クダサイ。
「伝説のスナイパー」カイル・クリスは典型的なテキサスのレッド・ネックで、「アメリカの正義」を信じて疑わない。戦場の現実(なんか陳腐な表現で申し訳ない)に放り込まれても、PTSDに苦しめ続けられてもなお、「正義」にしがみ付き続ける。
 イーストウッドは、そんなクリスの矛盾を深く追及しようとはしない。そもそも、イラク戦争そのものがでっち上げで始められたということに言及すらしていない。本作が右翼映画だと批判および称賛されるのは、そうしたことが主な原因だろう。

 しかし、クリスが初陣でいきなり幼い少年を射殺するか否かの判断を迫られるという事実、自身や他の兵士や元兵士がPTSDに苦しめられるという事実、退役後の彼が元兵士の社会復帰に尽力したという事実、その一人に殺されるという事実そのものが、イラク戦争とアメリカの本質を表している。そしてイーストウッドは、それらの事実を克明に描くことで観客に問い掛けているのだろう(で、その結果が戦意高揚映画扱いなわけだけど)。

 戦意高揚映画扱いの今一つの原因は、戦闘場面を「かっこよく」描いてることだろう。いや、私は中東の陰惨な状況が念頭を去らなかったので、かっこいいとは到底思えなかったんだが、とにかく迫力というか異様な緊張感に満ちているので、それをかっこいいと思う人もいるでしょう。
 実際にドンパチやってる場面だけでなく、前線での場面ではずっとこの緊張感が続いていて、しかも2時間半近い尺のうち少なくとも3分の2を前線場面が占める。戦闘場面のある映画は結構観てるほうだと思うけど、イーストウッド自身の映画も含めて、これだけ緊迫感のある戦闘場面が続く映画は初めてだ。
 かてて加えて戦地以外の場面でも、中盤以降は主人公のPTSDが悪化し、いつ「壊れる」かわからない別種の緊張が漲ることになる。
 ちょっと、なかなか、しんどい映画でしたね。お蔭で2時間半もあっという間でしたが。

 それにしてもイーストウッドは凄いなあ。「相変わらず」凄いんじゃなくて、「ますます」凄いというのが恐ろしい……いくら優秀なスタッフ陣に支えられてるにしたってね。超人か。てゆうか、冒頭に少年の射殺シーンを持ってくるって、容赦なさすぎ。

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