『SFマガジン』2015年8月号
今月25日発売の『SFマガジン』2015年8月号は、いよいよハヤカワ文庫SF総解説、最終回です。
今回、私はティプトリーの『星ぼしの荒野から』を担当しています。これ1冊だけですが、この企画のことを知って以来、どうしても解説を担当したかった1冊です。
1999年の刊行(原書は1981)ですが、当時はSFから離れていたので、読んだのは確か『グアルディア』執筆中の2003年です。
10本の短篇のうち、「たおやかな狂える手に」は学生時代に『SFマガジン』に掲載されたのを読んだ時の衝撃は忘れられませんが、本書で初めて読んだ「おお、わが姉妹よ、光満つるその顔よ!」はそれを上回るもので、あまりの異様さに「10年経ったら再読して、それでもまだ衝撃的か確かめよう」と決めたのでした。
で、とっくに10年は過ぎてたわけですが、再読するのが怖い、つまり「再読してみたら大したことなくてがっかり」というのはティプトリーに限ってはないだろうけど、万が一ということもあるし、初読時と異様さが変わってなかったり、あるいはもっと異様だったりしたら、それこそ怖いし……というわけで、もうちょっと、もうちょっと、と先送りしていたのでした。
この文庫総解説は、どの本を担当するかは執筆者の希望が反映されるのですが、最終的に決めるのは編集部の方々なので、本書を担当できると知った時は、本当に嬉しかったです。ありがとうございました。先送りしていて、よかった。
というわけで、十余年振りに読んだ「おお、姉妹よ」は、やっぱり異様でした。強まりこそさえしませんでしたが、これっぽっちも弱まっていない。つまり、「ティプトリーって、すっげー意地悪」。かっこよすぎだ。
解説では紙幅の都合で、とても収録作品全部に触れることはできませんでしたが、残りの9篇も、やっぱり意地悪だ。
SFは全般に長篇より短篇が好きなのですが、やはり作品によっては時間が経つと忘れてしまうもので、たとえばある作家の短編集を読んだら、仮に収録作品が10篇だとして、うち5篇は多少なりとも読んだ記憶があるのに、残り5篇はまったく記憶になく、「5篇も憶えてるということは、それぞれ別のアンソロジーで読んだとかじゃなくて、この短編集自体が再読ということになるんだろうが、それならそれで、残り5篇のみならず本のタイトルも装丁も巻末解説も完全に記憶喪失って、どういうこっちゃあ」という事態が、ごくごく偶にですがあります。
今回、『星ぼしの荒野から』を再読するに当たり、ティプトリーのほかの短編集のうち何冊か再読したのですが、実はそれらの一部の収録作品は、読んだこと自体が思い出せない記憶喪失でした……(どれとは言いませんが。もちろんあれとか、あれとか、あれとかではない)。
ティプトリー作品に限らず、憶えてるといっても本当に断片的でしかないこともありますが、この『星ぼしの荒野から』はどれも強く印象に残っていて、再読でその印象が鮮やかに蘇りましたよ。
今号で解説が掲載される文庫については、『星ぼしの荒野から』を担当できたので満足してしまったのと、ちょっとだけ忙しかった(多忙と呼ぶにはほど遠い状態でも、一度にできることが少ないのです)のとで、ほかの本の解説担当は希望しませんでしたが、その分、ほかの方々の解説を読むのが楽しみです。
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