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アイアンクラッド

 マグナカルタというと、世界史の授業で習うのは、1215年、貴族が結託してジョン王に署名させる、というところまでだ。
  しかし、そもそもマグナカルタに署名させられるような王が、素直にマグナカルタを守るはずもなく、貴族たちが兵を引くと早速、反撃に出る。という史実が題材。
 ジョン王はリチャード獅子心王の弟なので、時系列でいくと『キング・オブ・ヘブン』『ロビン・フッド』の次に位置する。この二作に比べるとだいぶ低予算なんだが、その分、血みどろで如何にも暗黒の中世である。

  ジョン王を演じるのがポール・ジアマッティ。マグナカルタを支持する貴族たちを、ジョン王がデンマークの傭兵部隊を使って次々潰していくので、ロチェスター城に立て籠もって戦う貴族がブライアン・コックス。
 ブライアン・コックスに城を占拠され、否応なしに反乱軍の一員とされるロチェスター城主がデレク・ジャコビ。ブライアン・コックスの配下の一人がジェイソン・フレミング。貴族側につく大司教がチャールズ・ダンス。
 主役のテンプル騎士のジェームズ・ピュアフォイは『ロックユー!』でエドワード黒太子だったくらいしか印象がなく、今回もぱっとしないとまでは言わんが、ほかの役者でも構わないような程度でしかなかったのに対し、脇役が妙に渋い役者揃い。特にジョン王のジアマッティはこれまでコミカルな印象が強かったが、今回は無能な上に悪逆な「英国史上最低の王」を堂々と演じている。

 開幕して直ちに主人公とジョン王に因縁が生じ、反乱軍がロチェスター城を乗っ取るまで、とっとと話が進み、ジョン王とデンマークの傭兵部隊による攻城戦が始まる。
 王の軍は投石機で石や焼夷弾をガンガン撃ち込み、梯子をかけて城壁を乗り越えようとすると、反乱軍は煮えたぎった油を注いで対抗する。そこで攻城塔が持ち出されると、防御側も投石機を作って対抗する。

 いや、やっぱり攻城兵器っていいですね。 投石機の飛距離が誇張されてるとか(実際の最大飛距離は400メートルもなかったのに、明らかに500メートル以上飛んでる)、焼夷弾が着弾と同時に爆発炎上するとか、投石機の建造には相当な知識と技能が必要なのに反乱側は簡単に作ってしまうとか(王の軍にはちゃんと技師がいる)、移動してくる攻城塔に城壁の内側から目視もせんと弾を撃ってどうやって命中させたんだとか(籠城側の投石機は普通、城壁や塔の上に据えられえる)、そういう映画の嘘はあるが、時代考証無視の嘘兵器は出てこない。いや、スチームパンクだったら嘘兵器は大歓迎なんだが、考証をある程度重視した史劇でそれはやってほしくないからね。

 欲を言えば、『キングダム・オブ・ヘブン』みたいに攻城兵器をもっと間近でじっくり撮ってもらいたかったが、その代わり低予算の特権とばかりに飛んできた石弾が兵士の頭を直撃したりする(ご丁寧に死体も映す)。
 そして上から落とされる石や油にも負けずに城壁を乗り越えてきた傭兵たちは、何しろデンマーク人なのでまるっきりバイキングである。彼らは異教徒の貴族とその配下で、異教徒なので教皇に領地や財産を取り上げられそうになっていて、ジョン王から教皇に取り成してもらう代わりにこき使われているという、実はかなり気の毒な人々なのだった。でも異教徒でデンマーク人なので、まるっきり蛮族で、青いペインティングをして巨大な斧を振り回して闘うのであった。

 しかし中盤を過ぎ、籠城戦になると途端に話がだれる。糧食が尽きて飢餓状態だというのに、全然そうは見えないというのも問題だが(痩せ衰えろとまでは言わんが、せめて少しくらい脂肪を落としてくれ)、籠城中だって、外部と連絡を取ろうとするとか、いろいろできることはあるだろう。しょうもないロマンスでお茶を濁すな。  

 前半後半と2日に分けて観たせいで余計に中だるみの印象が強かったかもしれん。まあそこを過ぎると、坑道を掘って塔の基部を崩したりと、滅多にお目に掛かれないような映像を見せてくれる。

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