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「ガーヤト・アルハキーム」解説 その十三

『ナイトランド・クォータリー』vol.18「想像界の生物相」掲載の短篇「ガーヤト・アルハキーム」の解説です。連日更新中。

目次

頁数は『ナイトランド・クォータリー』本体のものです。
p.60
下段18行
施錠装置
 本作の世界では「操霊術」(「霊的存在」)の操作は錬成術(錬金術)の領分だが、この施錠装置は霊的存在とは一切関わりのない、ただの数学と機械工学に基づいて作られている。計算で求めた日替わりの暗証番号(数字)を入力すると、内部の機巧(カラクリ)によって扉が開く。
 機巧については次の次の項で、暗証番号を求める計算については後日解説。

防護機構
 前頁のイスマイールの護符と同じく「操霊術」の一種。作中で述べられているように番号入力を3回間違えると作動し、「防護霊」が発現して攻撃する(「発現」については後述)。
 扉を破壊しようとしても発現すると思われる。

p.61
機巧(カラクリ)
 自動装置のこと。古代ユーナーン(ギリシア)では機械工学が発達し、ヘレニズム時代のアレクサンドリアでさらなる発展を遂げた。ヘロンの各種自動装置はその粋である。錬成術(錬金術)もこの時代のアレクサンドリアで盛行した。
 本作ではシン神殿の神官兼錬成術師たちは、ヘロンの後継者でもある。
 扉の施錠と開閉を行う自動装置は、錘を動力源としていると考えられる。数字が刻まれた「円盤」つまりダイヤルを回して暗証番号を入力すると、錘が落ちて装置が動き、扉が開く。錘が巻き取られて扉が閉まるまでが自動で行われる。

地下の大書庫
 ハッラーンから数十キロ北東に、ソーマタルと呼ばれる遺跡がある。ハッラーンと並ぶ、この地に残存していた古代以来の信仰の中心地で、歴史家/地理学者のマスウーディー(AD896-956)の『黄金の牧場と宝石の鉱山』によれば、ドーム型の大神殿と、それを囲む7つの神殿から成っていたという。これら8つの神殿は、ひどく損壊しているものの現存している。
 マスウーディーによると、ドーム状の大神殿の地下には巨大な縦穴があり、その入り口には「古代文字」で次のように記されていたという。
「この竪穴は記録庫に通じている。その中には、太古から保存されてきた世界の叡智がすべてある。ここは世界の秘密、天国の学問、そして過去、現在、未来のすべての事柄の隠された秘密が保持されている。この竪穴の中には、世界の宝が横たわっている。
 しかしその価値があることを望む者は誰であろうと、力、叡智、そして学問において我らと等しくなければならない。そのようであれる者は誰でも、己が我らの仲間だと知るであろう。
 しかし汝に価値がないことを注意せよ。なぜなら汝は学ぶだろう、どれほど我らの叡智が深く、我らの学問が幅広く、我らの警戒が厳重かを」
(邦訳がないので英訳から訳す。たぶんそれほど間違ってはいないと思う)
 ハッラーンの神殿がどのような構造だったのか記録は残っていないが、古代メソポタミアにおいて神官階級は知的エリートであり、神殿は学問の中心でもあったから、大量の蔵書があったことは間違いない。本作ではマスウーディーの記述をモデルに、地下に大書庫があったことにした。
 少なくとも、地元民の間で現在に至るまで言い伝えられているところによると、ハッラーンの神殿には、なんらかの地下施設があった。ソーマタルの地下書庫からは地下道が伸び、周囲の7つの神殿、そして数十キロ離れたハッラーンの神殿(の跡地)と繋がっているというのである。ハッラーンの神殿は跡形もなく、ソーマタル遺跡は調査がほとんど行われていないので、地下書庫も地下道も、あったともなかったとも言えない。

 続きます。

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