「ガーヤト・アルハキーム」解説 その十六
『ナイトランド・クォータリー』vol.18「想像界の生物相」掲載の短篇「ガーヤト・アルハキーム」の解説です。連日更新中。
頁数は『ナイトランド・クォータリー』本体のものです。
p.61
下段20行
エネルゴン
「活力/動力」、いわゆる「エネルギー」を表わす語。しかし語源であるユーナーン(ギリシア)語の「エネルゲイア」は、アリストテレス(BC384-BC322)以来の哲学用語で、その意味するところは「活力」「動力」といったものとはかなり異なる(専門外もいいとこなので、解説は省かせていただきます)。
しかし「エネルゲイア」のさらなる原型は、接頭辞εν-(en-)+εργον(ergon)「仕事」でενεργον(energon)「仕事をするもの」であり、「エネルギー」の概念に近い。なお現代ユーナーン語ではενεργεια(energeia)は「エネルギー」の意味で使われている。
また後述するように、錬成術(錬金術)は哲学者によって見下されていた。錬成術が新興の学問・技術だった時代(AD2世紀?)には、なおさらだっただろう。その錬成術の用語として、哲学用語として確立されて久しい「エネルゲイア」を採用したりしたら、哲学者たちの反感を買うのは避けられない。
以上2つの理由から、「エネルゴン」が採用された、という設定。エネルゴンそのものについての解説は後ほど。
メシアス教
キリスト教のこと。タージク(アラビア)語では「マシーヒア」といい、「マシーフ教」の意。
「マシーフ」は「(聖油を)注がれた者」、すなわち「聖別された者」で、ヘブライ語の「マシアハ」と同じ。ユダヤ教終末論において「マシアハ」は「救世主」と目され、キリスト教ではイエスのことである。
イスラムにおいては「救世主」の意味合いは薄く、イーサー(イエス)の別名のような扱いである。したがって「マシーフ教」は、「救世主教」というより、「イエス教」くらいの意味だと言えよう。
いずれにせよマシーフでもマシアハでもなんのことか解らないので、そのユーナーン(ギリシア)語形「メシアス」を採用。日本語の「メシア」はこの「メシアス」から。作中には文脈上、「救世主」に「メシアス」とルビを振った形の表記もある。イスラムにおける救世主論については後述。
ファールス(ペルシア)やメソポタミア、タージク(アラビア)半島に広まっていたメシアス(キリスト)教はネストリウス派など、ルーム(ローマ)によって異端とされた諸派である。以前に解説したように、古代およびヘレニズムのユーナーン文化が中東に継承されたのは、彼らに負うところが大きい。
異教として迫害されたユーナーンの多神教徒たちが、同じく迫害された者同士であっても、メシアス教徒というだけで信用できないのは致し方ないと言えるが、何かにつけて見下すのは傲慢というものである。
p.62
承知した
神殿のユーナーン(ギリシア)人たちが、ルーム(ローマ)人と言われるのを嫌うことや(p.59)、女性の地位が高いこと(p.60)などと同様、彼らの傲慢さについても予めジャービルから説明されていたのだろう。
次回が長くなる予定なので、今回はここまで。
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