« 「ガーヤト・アルハキーム」解説 その三十五 | トップページ | 「ガーヤト・アルハキーム」解説 その三十七 »

「ガーヤト・アルハキーム」解説 その三十六

『ナイトランド・クォータリー』vol.18「想像界の生物相」掲載の短篇「ガーヤト・アルハキーム」の解説です。連日更新中。

目次

頁数は『ナイトランド・クォータリー』本体のものです。
p.64
上段16行
ジャアファル・サーディク
 イスマイールの父。生没年はAD702-765。733年に没した父の跡を継ぎ、アリー一族の当主となる。
 より原語に忠実に表記するなら「ジャアファル・アッサーディク」であるが、「アッ」は定冠詞なので(「アル」が発音規則により促音化)、日本語では省略されることが多い。もちろん私も簡潔なほうを採る。
「ジャアファル」が個人名で、「サーディク」は「誠実なる(者)」というような意味で一種の尊称だが、「ジャアファル」だと「ジャービル」と字面が似ているので、本作では通称(?)として「サーディク」を選択。ちなみに「サーディク」は後世、普通に個人名として使われるようになった。そのファールス(ペルシア)語形が、イランの小説家ヘダーヤト(白水社『盲目の梟』など。1903-1951)の名「サーデグ」である。
 サーディクが錬成術(錬金術)師だったという記録(彼の著作とされる錬成術書が多数あるそうだが、現存するんだろうか?)は、後世の捏造である可能性が高く、そうなると彼がジャービルの師だったというのも疑わしくなってくる(後述)。しかし本作のこの箇所で述べたサーディクの人物評については、特に疑う理由はない。
 実際、彼が置かれていた状況(解説その三十四および三十五参照)を考えれば、一族郎党を守るために温厚篤実に振る舞わざるを得ず、学問に打ち込んだのも、野心がないことのアピールでもあったのではあるまいか。

第六代大導師(イマーム)
 解説その一の「大導師」の項で述べたように、「イマーム」は「ある派の人々」にとっては「イスラム世界の最高指導者」すなわち「ハリーファ(名代)」の異称なので、その意味では「大導師」の語を当てるが、イスラム主流派(スンナ派)にとって「イマーム」は単に「導師」、すなわち「宗教的指導者」全般を指す。だからハリーファも、都市の一地区や小さな村の宗教指導者も等しく「イマーム」である。
「ある派の人々」とは「アリー派」(解説その三十四参照)のことで、彼らにとっての「大導師」の概念については次回解説する。
 ひとまず「アリー一族(イスマイールの曽々々祖父アリーの子孫たち)の当主」という意味での歴代の「イマーム」は次のとおり。
① アリー
② ハサン(アリーの長男)
③ フサイン(アリーの次男)
④ 小アリー(フサインの息子で、祖父と名前が同じというだけでなく、長じて容姿がそっくりになったのでこう呼ばれたという)
⑤ ムハンマド・バーキル(小アリーの息子)
⑥ ジャアファル・サーディク(ムハンマド・バーキルの息子。イスマイールの父)
 ハサンは自主的に隠遁したため(解説その三十一の「ハサン」の項参照)、アリー一族当主の地位はフサインの子孫(フサイン家)に受け継がれることとなった。

全信徒の長(アミール・アルムウミニーン)
 解説その三十参照。

 次項が長くなる予定なので、また明日

目次

|

« 「ガーヤト・アルハキーム」解説 その三十五 | トップページ | 「ガーヤト・アルハキーム」解説 その三十七 »

「ガーヤト・アルハキーム」解説」カテゴリの記事