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「ガーヤト・アルハキーム」解説 その五十

『ナイトランド・クォータリー』vol.18「想像界の生物相」掲載の短篇「ガーヤト・アルハキーム」の解説です。連日更新中。

目次

頁数は『ナイトランド・クォータリー』本体のものです。
p.68
下段4行
死者あるいは生者から……
 えーと、要するにクローンです。SF脳なんで、元ネタ(解説その四の「犠牲に選ばれるのは……」の項参照)から思いつくのが、どうしてもそういう方向になります。どうもすみません。
 設定的には、この世界の物質(および「霊的存在」)は「エネルゴン」から構成されているので、物質変成などの操作は比較的簡単です。正確な操作には正確な計算が必要で、それをやろうとしているのが錬成術(錬金術)。
 一方、魔術は数量化や再現性といった概念を持たないまま、行き当たりばったりと経験則でそれなりに発展してきたのが、経験則を無視した机上の空論が発達したのが仇となって衰退してしまった、というような状況です。
 この「クローン技術」も、古代キーム(エジプト)で行き当たりばったりと経験則で一応確立されたのが、机上の空論が幅を利かせるようになったことで、いったん衰退。ヘレニズム時代に入ってユーナーン(ギリシア)人の錬成術師たちによる数量化を経て復活、といったところですね。

追記:あと、錬成術(錬金術)なので当然ながら、ホムンクルスのイメージも被せています。

復活は来世まで……
 エジプトのミイラは来世で復活するためのものだが、当初は現世で復活すると信じられていたそうである。

七体
 作中で述べられているように余分に作るのは予備のためだが、他の数ではなく「7」なのは、ハッラーンのヒルミス(ヘルメス)=シン信仰ではこの数を重視したから(七惑星に基づくと思われる)。

宮殿
 本作の前年に即位したマルワーン2世は、その短い治世(AD744-750)の間にハッラーンを再開発し、宮殿も建設した。その宮殿はシン神殿の場所に建てられた、という英語記事を幾つか見つけたんだが、神殿がその後も存続していたのは多くの記録から明らかである(最終的にモンゴル軍に破壊された)。イスラムの支配下で、いったん破壊された神殿を再建できたとは考え難い。
 しかしシン神殿は都市の中心にあり、信者が減少したとはいえ、それなりの面積を有していたはずだから(本殿のほかに少なくとも倉庫群と神官の宿舎くらいはあっただろう)、宮殿用に接収の話が出ていた可能性は高い。

アッバース家
 作中でも述べているように、預言者ムハンマドの叔父アッバースの子孫。「極秘計画」については追々解説していきます。

p.69
上段
異教徒の保護
 預言者ムハンマドの時代から、異教徒はムスリムに納税する代わりに一定の権利を与えられる。そのような異教徒を「ズィンミー」と呼ぶ。タージク(アラビア)語で「庇護民」の意。
 聖典では「啓典の民」(唯一神からの啓示を記した聖典を有する民)の権利を謳う一方で、多神教と偶像崇拝を厳禁しているので、多神教徒および偶像崇拝者は保護の対象にはならないことになる。しかし初期イスラム時代から、マギ(ゾロアスター)教やハッラーンの多神教徒は保護の対象になっており、強制改宗は例外的なケースであった(解説その二十三参照)。
 とはいえ、民衆レベルでは異教徒への嫌がらせは日常的に行われており(解説その二の「犬のように無視される」の項参照)、また時代が下ってイスラム世界全体が保守化してくると、マギ教もハッラーンの異教も「一神教化」せざるを得なくなる(マギ教は教義そのものを改変したが、ハッラーンの場合は一神教に偽装しただけだった)。

 続きます。

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