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「ガーヤト・アルハキーム」解説 その四十九

『ナイトランド・クォータリー』vol.18「想像界の生物相」掲載の短篇「ガーヤト・アルハキーム」の解説です。連日更新中。

目次

頁数は『ナイトランド・クォータリー』本体のものです。
p.67
下段19行
地下通路
 ハッラーンは広大な平原に建設された都市なので、市壁(防壁)に囲まれている。シン神殿はハッラーンの中心にあった。
 解説その十三の「地下の大書庫」の項で述べたように、現代のハッラーン一帯では、かつてシン神殿の地下に秘密の通路があった、と語り伝えられているという。それが数十キロに及ぶ長大なものだったかどうかはともかく、古代メソポタミアの都市間戦争では、敵に最も狙われるのは都市の主神の像だったから、神殿地下に秘密の脱出路が設けられていた可能性は充分にある。

黒土の国(キーム)から来た男に……
 ロバート・アーウィン『必携 アラビアン・ナイト 物語の迷宮へ』(平凡社)によれば、キーム(エジプト)では数千年前からファラオの宝を求めて盗掘が横行し、それに伴って宝探しの魔術も発達した。同書では『千夜一夜』中のキームの宝探しの物語のほか、AD13世紀に書かれた宝探しの指南書を紹介している。
 オーウェン・デイビーズ『世界で最も危険な書物 グリモワールの歴史』(柏書房)によれば、中世末期(14世紀頃)から西洋人もキームの宝探しに参戦した。彼らもタージク(アラビア)語の魔術書を使用したが、中でも特に人気だった『埋められた真珠の本』は、1930年代になってもトレジャーハンター必携の書だったという。

p.68
図と数字から……
 解説その十三で後回しにした「施錠装置」の解説を、ようやく行える。扉の「把手の傍らに熔接された」「鉄の小箱」(p.60下段最後の行)に付いている「真鍮の板」に図と数字が刻印されており、その図と数字から設問を理解し、計算し、解答を数字が刻まれた「円盤」(要するにダイヤル)で入力すると解錠(扉の開閉から施錠までは自動)。問題を記した「真鍮の板」は扉ごとに12枚用意され、日替わりする(定期的に総入れ替えもされているかもしれない)。
 入力を3回間違えれば「防御機構」が発動して「エネルゴン」に攻撃されるが、この「施錠装置」自体は錬成術(錬金術)とはまったく無関係で、必要なのは図と数字のみから設問を理解する知識と知力、そして計算力だけである。まあこの時代(AD8世紀半ば)においては、ハッラーンの上級神官たちが、そんなことができるのはこの世に自分たちだけしか存在しないと思い込むくらいの特殊能力ではある。
 というわけで解錠に使われた書字板(解説その十二の「書字板」参照)は、計算用である。神殿に侵入したイスマイールも当然、書字板を携帯している。

その驕り
 彼らの傲慢さについては、解説その十二の「割礼」の項やその十六の「メシアス教」の項を参照。

機巧(カラクリ)で動く神像に……
 参照:深谷雅嗣「古代エジプトの神託とその社会的機能」(『宗教研究』第81巻4号所収)

 前回に引き続き、今回もサクサク進みましたね。それではまた明日

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