皮膚を売った男
2020年公開。カウテール・ベン・ハニア監督はチュニジア人女性。ムスリムっぽくない姓だと思ったら、「ベン」が付くのはマグリブ固有の特徴だそうだ。あと、主演のヤヤ・マヘイニって変な名前だと思ったらヤフヤーyahyaかよ。マヘイニもmahayniだからマハイニーだろうな。
シリア人の主人公は、恋に浮かれて電車内でうっかり口走ってしまった「革命」「自由」というワードのせいで逮捕される。取調官が親戚だったため逃がしてもらえ、レバノンに亡命する。恋人は外交官と結婚させられ、ベルギーに行ってしまったので、偶々知り合ったベルギー人芸術家の「作品」となることでベルギーに行く。
ベルギー人芸術家ヴィム・デルボアが生きた人間にタトゥーを施した「作品」展示にインスパイアされた。デルボア本人も保険会社社員としてカメオ出演。数分の出番だが、結構印象的だった。
インスパイア元となった作品の「キャンバス」となったのは、ティム・シュタイナーというスイス出身の男性で、当該作品を見るに白人。デルボアと契約を結んだのは純粋に興味からで、金に困っている等の事情はまったくないようだ。デルボアとの間に非対称性は見出せない。
一方、本作の主人公はシリア人、それも難民である。そんな人物が白人の「作品」となり、主に白人を相手に「展示」される、となれば、嫌でも連想されるのは悪名高い「人間動物園」である。19世紀後半~20世紀前半に万博等で行われた「人間の展示」だ。「未開人」のほか、身体障碍者が対象となった。中東人はベリーダンスの披露を例外として「展示物」とされることはなかったようだけど、本作の「展示する側とされる側の非対称」は「人間動物園」そのままだ。
なお、『グレイテスト・ショーマン』(2017)でヒュー・ジャックマンが演じたP・T・バーナスがやってたような見世物小屋の類も、万博と同じく「科学の展示」を謳っていたが、ああいうところでは「全身刺青男」なんかも見世物の対象だった。本作(あるいはデルボアの作品)がそこまで踏まえてるかどうかは不明だが。
(『グレイテスト・ショーマン』にはあまり感心しなかったし、かと言って特に批判したい点もないので、感想はブログに上げません)以下、一応ネタバレ注意。
「人間動物園」のことを知った上で敢えて露悪的に「作品」を制作してそうな「白人芸術家」の傲慢さと、切羽詰まってるとはいえ自分の尊厳の切り売りを選択してしまった「非西洋人の難民」(教養はあるほうだが「人間動物園」の歴史までは知らなさそう)という非対称の構図。「人間動物園」の展示される側にもする側にもなった歴史を持つ日本人としては、なんとも居心地の悪い思いで鑑賞することになる……のに、なんか雑なハッピーエンドになってもうた。
現代の技術であのサイズの皮膚培養は無理だろ、とか、肌理の粗さやほくろやしみや傷痕等の再現はどうなってんの?とか。まだシリアで平和に暮らすのは無理だろ、とか。とはいえ、御都合主義というよりはお伽話的、寓話的な結末ではある。
なお、鑑賞時点では「革命」「自由」というワードがやばいのは理解できたが、なぜあの場面で口にしたのか解ってなかったんだが、後で調べたら恋人とは階級が違って結婚が難しいから、という理由だそうだ。
主演のマヘイニはシリア人で本業は弁護士(演技経験はあり)。オーディションに応募したらしい。英語Wikiにも記事がなくて、今どうしてるのかなあ。あと、ベルギー人芸術家のマネージャーがモニカ・ベルッチだった。インタビューによると「できる女」の演技を心掛けたそうだが、どこか隙のある感は人柄か。
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