ゲット・アウト
2017年公開。ジャンルとしてはホラー、ブラックコメディ。ネタバレ注意。
オバマ政権下、黒人青年クリスは、恋人で白人のローズの実家を訪ねることになる。交際相手が黒人だと家族に告げていないというローズ(「言う必要ある?」)に、クリスは懸念を示す。車で実家に向かう途中、飛び出してきた鹿をはねてしまう。作中では触れられていないが、この鹿はblack buckという種類で、この名前は「白人の女を襲う黒人の男」を指すスラングでもあるそうだ。
「異人種の男は我々の女を狙っている」というのは、レイシストたちが抱く被害妄想の中でも最も強力なものの一つで、かつてのアメリカ(特に南部)では、「白人の女を見た」(=やりたいと思ってる)と言いがかりを付けられ、大勢の黒人男性が殺されてきた(さらに遡れば、ヨーロッパでは同じ理由でユダヤ人男性が殺されてきた)。今なおアメリカでは、黒人男性と白人女性のカップルは白い目で見られがちだという。
郊外の立派な一軒家に住むローズの両親はクリスを歓迎してくれるが、会話はどこか噛み合わず、緊張感が漂う。使用人が2人いるが、どちらも黒人なのも引っかかる。遅れてやってきた弟は、クスリでもやってんのかというハイテンションで、やたらと絡んでくる。実はこの家には恐ろしい秘密があり……
ホラーというジャンルそのものが嫌いなわけではないが、嫌いなホラー作品は多い。ジャンプスケア(急に何か飛び出してきたり、大きな音を鳴らしたりでびっくりさせる系)やら不安を高める音響やカメラワーク、感染を連想させる不衛生な環境や腐敗したり膿爛れたりした人や動物(生死問わず)といった、「辺縁系を刺激する」演出のことごとくが大嫌いだからだ。安直な手法だし、そうと解ってるのにしっかり反応してしまう自分の辺縁系にも腹が立つ。
後、大量の血を見ると、なぜだか自分でも解らんが、ヒステリックな笑いが込み上げるという困った癖がある。ちっとも可笑しくないのに笑いたいというのは本当に変な気分で、とにかく困惑させられるので、実際に笑ったことは一度もない(なお現実でも二回ほどだが血だまりに遭遇してしまったことはあるが、当然ながら笑いの発作に襲われたことはない)。そんなわけで、「どうだ怖いだろう」と血塗れ画面を出されると微妙な気分になってしまう。ホラーならまだいいが、耽美な作品でこれをやられると、本当に困る。
その点、コメディ系ホラーなら、辺縁系刺激演出も大量の血も、こっちを笑かそうとやってるんだと思えば腹も立たない。それでつまんなかったとしても、まあ好みの問題だしな。
本作は辺縁系刺激演出はほぼなく(大量と言えるほどの出血もなく)、「様子のおかしい黒人使用人たち」のような「じわじわくる怖さ」で勝負しており、かつおもしろいホラー/コメディだった。
ジョーダン・ピール監督は父親が黒人、母親が白人、妻は白人であり、白人の恋人の実家を訪ねて居心地の悪い思いをする、というシチュエーションは実体験に基づいているそうだ。
クリス役は『ユダ&ブラック・メシア』(2021)で黒人指導者のフレッド・ハンプトンを演じたダニエル・カルーヤ。本作では28歳という年齢より、むしろ若く見えるのに、たった4年でえらく老け込んだんだな。
「ユダ」役のラキース・スタンフィールドも本作に出ていて、出番は少ないながら「高所得層の白人高齢者男性」の喋り方、仕草、表情の黒人青年、という異様な役を巧みに演じていた。『トロピック・サンダー』(2008)のロバート・ダウニー・Jrを思い出す(「黒人役に挑む演技派白人俳優」の役で、役に入り込むあまり四六時中、黒人の扮装で黒人のように振る舞い続け、共演者の「本物」の黒人をイラつかせる。ダウニーJrはこれでアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたが、2026年現在どころか本作公開当時でも炎上しかねないな)。
ローズの母親で心理療法家のミッシーを演じたキャスリーン・キーナーは、『マルコヴィッチの穴』で強烈な印象を放った後はパッとしなかったので残念に思っていたが、ようやく存在感のある役。あの個性的な美貌は面影すらなくなっちゃったけどな。
当初、用意されていた結末は、クリスが殺人犯として逮捕されるというもので、後味が悪いからやめたようだが、どのみちあの後、逮捕されるのは確定だよなあ。
数えてないが、ローズが騙して連れて来た黒人は10人はいたようだし、弟の分も合わせれば倍にはなりそう。「成功例」は3人しか登場しなかったけど、残りの人たちはどうなったの? ビデオの中で祖父が「実現したのは最近だ」というようなことを言っていたので大半は失敗したんだろうけど、それでも3人しか成功してないってことはないだろう。3人だけだとしても、結末後、まだ1人残る「成功例」はどうなるんだ、とか。そういう細かい引っ掛かりが粗と言えば粗。
脳移植といっても脳を丸ごと入れ替えるわけではなく、黒人の脳に白人の脳の一部を付け足す、という形式らしい。その辺の科学的かつ技術的な説明がふわふわしてるのは、粗というより御愛嬌。
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