ニル・バイ・マウス
1997年公開。こいつら10秒喋るごとに何回ファッキン言ってんだ。Wikiの「fuckが頻出する映画の一覧」(最新編集は2024年10月)によれば第5位。10位以内で観たことあるのは4位『サマー・オブ・サム』(1999)、6位『カジノ』(1995)、9位『ツイン・タウン』(1997)だけど、どれも本作ほどは耳につかなかったよ。
なんか、ひどい時にはワンセンテンスのすべての名詞と動詞にfuckin’付けてる勢い。そんで、女性キャラでもファッキン頻度は男性キャラよりわずかに低いだけなの。
ゲイリー・オールドマンの今のところ唯一の監督作品。『トレインスポッティング』(96)を皮切りに、上記の『ツイン・タウン』とか『ブラス!』(96)とか『フル・モンティ』(97)とか、当時の「英国のどん詰まり感」を描いた映画が次々と製作されたが(ほかにもあるかもしれないが、観たのは以上)、これもその一つと言える。ただし58年生まれのオールドマンが育った環境も、だいたいこんな感じだったらしい。
製作がリュック・ベッソンだというお蔭もあるんだろうけど、初監督作とは思えないほど出来がいい。プロットらしいプロットはない。上記の「英国どん詰まり映画」はそれなりにスタイリッシュだったりブラックとはいえユーモアがあったり、なんだかんだと人情噺だったりするが、本作はクズをクズとして淡々と描いているだけである。
無職の男たちが酒とクスリをやりながら、ファッキンファッキン言う合間にまったく中身のない話をしているだけである。本当に中身がない。そうしてしょっちゅうゲラゲラ笑うのだが、何が可笑しいのかさっぱり解らない。仲間内でしか通じないネタだからじゃなくて、頭が悪すぎて、笑いのセンスも終わっているのである。
チンピラ共のダラダラとした喋りと言えばタランティーノだが、結局あれは、頭の悪い喋りに見せ掛けた、才人による洗練された台詞なんだなと改めて実感する。本作はそれだけリアルということなんだろう。
何一つ解決しない代わりに、破滅もない。いや、普通は夫の暴力で妻が流産したり、ヤク中の若者が逮捕されて2年半喰らったりするのは充分に破滅なんだが、すでにどん詰まりすぎて、これくらいでは破滅にならないのである。そんな人々を、露悪的にも悲劇的にもならずに、ひたすら淡々と描いているので、鑑賞後は胸糞悪さどころか遣る瀬無さすら残らず、妙に達観した心持ちになれる。
そしてこんな内容なのに見入ってしまうほど、カメラワーク、演出、演技すべてが素晴らしい。なんか、例えば主人公のクズ中年の義弟(妻の弟)であるクズがクスリを買う金欲しさに、主人公のアパートに空き巣に入って黙々と家探しするだけのシーンなのに、見入ってしまうんだな。
そのクズ主人公役のレイ・ウィンストンは、流産させた妻に謝りたくて電話を掛けるが何も言えなくなってしまい、電話線を引っこ抜いて繋がっていない電話に向かって泣きながら謝罪と繰り言を垂れ流す。その一人芝居が壮絶。これでなんの賞も獲れてないって(英国アカデミー賞主演男優賞ノミネート止まり)おかしいだろ。
妻ヴァレリー役のキャシー・バークはカンヌで女優賞受賞だが、『エリザベス』(1998)のメアリー1世が、わずか数分の出番ながら強烈なインパクトだったので、正直なところ本作ではそこまで……いや、あくまでメアリー1世に比べたら、ですけど。
ヴァレリー(と弟)の母親を演じるのは、ゲイリー・オールドマンの姉ライラ・モース。1945年生まれだが、これがデビュー作。その後はTVを中心に女優業を続けているようですね。
劇中で流れる歌の一つを、オールドマン姉弟の母親キャスリーンKathleenが歌っているそうなので、エンドクレジットを確認したらCan’t help lovin’ dat manというタイトルだった。終盤にヴァレリーの祖母が歌っている曲である。祖母を演じるのはエドナ・ドレという女優なので、吹き替えなんだな(なお、劇中では一度も呼ばれないが祖母の名前はKath)。
キャスリーン・オールドマンは1918年生まれなので撮影時には77歳にはなっているが、「素人の割には巧い」「年齢の割には巧い」というレベルを遙かに超えて、張りのある美しい声で朗々と歌い上げている。姉弟の芸術的才能は彼女譲りだということか(亡くなったのは2018年なので大往生である)。
ゲイリー・オールドマンはこの作品を父親に捧げている。父親はアルコール依存症で、オールドマンが7歳の時に家族を捨てた。時代設定こそ撮影時現在に移しているが、ヴァレリーの連れ子の少女がちょうど7歳くらいだし、1シーンだけ登場する父子の、同じく7歳くらいの息子の名前が「ゲイリー」だし、自らの幼年時代を反映させていると見ていいだろう。
タイトルは「飲食禁止」の意味で、主に入院中の患者に対して使われる語だそうで、主人公が自分の碌でなしの父親が入院した時の思い出を語る中で出てくる。オールドマン自身は、父親とのそんな思い出すら作れなかったのだけど。
初監督作でこれだけのものになるんだから、1作だけじゃもったいないと思うんだが、撮りたいものは撮りきってしまったということなのかもしれないな。
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