ANORA アノーラ
2024年公開。一応ネタバレ注意。
2時間20分もあって、最初の45分を15分削れば傑作だったと思う(さらにもう何分か短くてもいい)。鑑賞対象としては男体より女体のほうが好きだから、アノーラが何も着てないか、ほとんど何も着てない画は目の保養だし、それを抜きにしても序盤のアノーラの「勤務風景」に尺を取るのは、彼女の生きる世界の描写として意味はある。
しかし彼女がオリガルヒ(ロシアのグレーな財閥)の御曹司イヴァンと出会うと、このドラ息子の貧相な半裸もしくは全裸がしばしば画面に映り込むことになり、ちゃんと服を着ている場面でも頭の悪いイチャイチャが延々続く。
この試練をどうにか乗り切ると、イヴァンの結婚を知った両親が激怒してアルメニア人のお目付け役を送り込み、途端にスラップスティックな展開になる。
イヴァンは脱兎の如く逃げ出し、残されたアノーラはお目付け役の手下のアルメニア人と、さらにその手下のロシア人チンピラを相手に大立ち回りを繰り広げる(ポールダンサーなので身体能力が高い)。ところでアノーラが投擲した燭台は七本枝に見えたんだが、だとするとイヴァンはユダヤ系設定か(演じるマルク・エイデルシュテイン自身はユダヤ系ロシア人)。
ひとまずこの4人で、イヴァンを探すということで話がつき、極寒のニューヨークを一晩中彷徨うことになる。ようやく見つけたイヴァンは泥酔していて、まともに話もできない。お目付け役はイヴァンの両親がアメリカに到着する前にアノーラを離婚させておくつもりだったが、ラスベガス(ネバダ州)で結婚したのでネバダ州まで行かないと離婚できないことが判明したので間に合わず、結局、両親も含めた全員でネバダ州まで行く羽目になる。
イヴァンの両親は絵に描いたようなオリガルヒであり、その圧力の前に、イヴァンはヘタレな上にクズ、クズの上にヘタレという絵に描いたような本性を露わにする。しかし、せっかく育てた財閥を、こんなのに継がせる気か? 一瞬で更地にするのが目に見えてるじゃねえか。
アノーラもイヴァンが親より自分を選ぶとは本気で思っていなかっただろうが、少しは庇ってくれる(それが愛ではなく、親への反抗からだとしても)と期待していたのは明らかで、初めて絶望に打ちのめされる。こんなヘタレに期待してしまった自分への絶望もあるだろう。それでも気丈に振る舞い続けるアノーラに、手下たちはだいぶ同情的になっていて、特に一番下っ端のイゴールは、チンピラなのに不器用で純情というあざとい造形で、最初の大立ち回りの段階ですでに好意を抱き始めているようだ。
終盤、イゴールと二人きりになったアノーラは、彼のぎこちない好意に「わたしをレイプしようとしたくせに」と言う。暴れ回る彼女を取り押さえた時のことだ。「そんな気はなかった」と困惑するイゴールを、アノーラはなおも難詰するが、どうやら彼が本気で困惑していると気づくと、今度は彼女が困惑し、その困惑はすぐに不安に変わったように見える。
もしかして彼女は、「レイプする男は被害者に性的魅力を感じている」と信じてるのか? それで、イゴールが彼女をレイプする気がなかった=彼女に性的魅力がなかったから、と考えて不安になったのか? レイプの被害と性的魅力を結びつけるのは歪んだ価値観だが(そしてその歪みを形成してきた背景を窺わせるが)、彼女がイヴァンに「見初められた」のは性的魅力に因るところが大きかったのは事実だし、彼女もそれは理解している。
その彼を繋ぎ留められなかったのは性的魅力が足りなかったからだ、と彼女は考えたかもしれないし、かといってほかに何も持っていないことも承知しているだろう。イゴールに性的魅力を否定された、と捉えたなら不安に駆られるだろうし、また明らかに好意を寄せられているのに性的魅力は否定されるという状況に混乱もしたのかもしれない。
イヴァンに棄てられたといっても、慰謝料として大金は手に入れたわけだが、それを元手に今後は堅実な人生を……なんて無理そうだよな。イゴールと関係を続けることになったとしても、速攻で破綻しそうだし。
以下、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)のネタバレ一応注意。
アノーラ役のマイキー・マディソンは、同作でシャロン・テート殺害(未遂)犯の中で一番悲惨な殺され方をした子。あの殺されっぷりで本作の主役を射止めたんだとか。
実行犯3人のうち女は2人だったけど、彼女は日本人というか東アジア的な顔立ち(かつ小柄)で目立ってたんだよな。東アジアといっても、南方寄りのやや濃いめの顔立ち。本作では特に序盤は厚化粧してることが多くて、それほどアジアっぽさは感じなかったが、すっぴんで疲れた顔してると、相変わらず社会派系の低予算映画で主役張りそうな面構えだ。なんか先祖にアジア系はいないけど、東欧系(ロシアとリトアニアとポーランド)がいるそうで、あの辺はだいぶ混血してるからな。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』感想(マイキー・マディソンには言及してません)
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