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モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由

 2015年公開。弁護士のトニー(本名はマリー・アントワネット。「トニー」は「アントワネット」の本来のドイツ語形「アントーニア」からか)はスキーで大怪我をし、リハビリ施設に入院する。医者に「膝は後ろ向きに曲がる関節だから、膝の怪我は心もそういう状態にあることを示す」とかスピリチュアルなことを言われるが、思い当たることがあって回想を始める。

 よしながふみ『西洋骨董洋菓子店』3巻に、「フランス映画のカップルは最初の15分でセックスして、残りの1時間45分はずっとケンカしてる」といった主旨の台詞があった。リアルタイムで読んだから2000年代初めのことだが、その時点でそんなフランス映画を観たことはなかった。フランス映画自体はそこそこ観ていたが、『グラン・ブルー』(1988)とか『ニキータ』(1990)とか『憎しみ』(1995)とか『ドーベルマン』(1997)とか『ジェヴォーダンの獣』(2001)みたいなの(ヴァンサン・カッセル率が高い)には、そういう展開が入る余地はない。
 まあ恋愛映画なんだろうなと推測はできたが、観たことのあるフランス恋愛映画というと『男と女』(1966)と『ベティ・ブルー』(1986)くらいで、どっちも上記の定義には当て嵌まらない。たぶんこの二作は例外なんだろうな、と思ったのであった。
 そもそも製作国にかかわらず恋愛映画そのものに興味がないので、それから実に四半世紀近く、フランスの恋愛映画を一作も観ることはなかった。しかし本作はヴァンサン・カッセルが出てる。悪役やチンピラ役以外、あんまり観たことがないのに気が付いたのである。カンヌで女優賞受賞、パルムドールノミネートだから、一定の質は担保されている。
 以下、ネタバレ注意。

 というわけで観てみたら、上映時間がエンドクレジットを除いたらほぼ2時間なんだが、最初のセックスが始まるのが開始からほぼ15分だから笑ってもうた。計測してるの?
 ヴァンサン・カッセル演じるジョルジオは現役チンピラでこそなかったが、チンピラ上がりの高級レストラン経営者。一方のトニーは冴えないインテリという自認がある。ジョルジオは自力で成功してきた自負がある上に、自分や友人たちがトニーとその弁護士仲間たちよりイケてる自信がある反面、トニーが象徴する堅実な人生への憧れもある。

 なので最初のセックス直後から喧嘩が始まるわけではなく、結婚、妊娠まではまあまあ順調に進む。しかしその期間でも、ジョルジオが何年も前に別れた彼女を未だに従業員として雇ってたりとか、トニーの父親とジョルジオの間の、明らかに「階層の違い」に起因する緊張感とか、不穏な要素はある。なお、現代フランスでは「マリー・アントワネット」は珍名扱いのようだ。
 この「階層の違い」による価値観、というよりむしろ倫理観の違いが露呈してくるのがトニーの妊娠中で、その後はずっと喧嘩と仲直りを繰り返す。このカップルがある程度巧くいってたのはトニーがジョルジオにコンプレックスを持ってるからで、トニーが注目度の高い仕事を任されるようになると、ジョルジオは嫉妬を剥き出しにする。

 離婚後も息子の担任との面談で、息子がもう時計を読める、というのをトニーが知らなかったのに対し、「俺は知ってた」としょうもないマウントを取るんだが、その直後にトニーの腕時計が在りし日に自分が贈ったものだと気づいて(確認して?)、こっそり嬉しそうにする。そういう度し難いクズだが魅力的な男、というキャラを説得力をもって演じられるのは、やはりヴァンサン・カッセルならではなんだろう。
 それにしても、トニーは弁護士なのに随分とエキセントリックだ。しかしジョルジオが絡まなければ充分に理性的で、周りの反応からも推し量るに、フランスの恋愛ってこれくらいが普通なのか?

 タイトルMon Roi「我が王」(英題もMy King)は、劇中で一度も言及されない。もちろん臣下からの呼び掛けのわけはないので、モンシェリみたいな恋人(男性)への呼び掛けかと思ったが、少なくとも慣用表現ではない。王のように私のすべてを支配する男、といったとこか?

 何しろフランス恋愛映画をほとんど観たことがなかったので、一度にこれだけたくさん「ジュテーム」と「モナムー」を聞いたのは初めてだ。発言者は9割ジョルジオで、その9割8分がトニーを言いくるめるためなので(2分はさすがに本気だろう)、ほんとにクズで笑える。
 おもしろかったが、フランス恋愛映画としては相当な上澄みだろうから、ほかのは観なくていいや。

 監督のマイウェンは元女優でリュック・ベッソンの元妻。『フィフス・エレメント』(1997)に異星人のオペラ歌手役で『ランメルモールのルチア』歌った異星人役(口パク)。その時は愛称の「ウィンウィン」名義だったのか。変わった名前だったことは憶えてる。ルーツが複雑なのもパンフで触れられてた憶えがあるが、ベッソンの妻だってことは書いてあったっけ。で、その時の主演のミラ・ジョヴォヴィッチにベッソン獲られちゃったのか。

ヴァンサン・カッセル出演作感想
『イースタン・プロミス』
『ブラック・スワン』

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