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冬の旅

 25年12月鑑賞。冒頭、畑の溝で若い女性が死んでいるのが発見される。警察が呼ばれるが、凍死した浮浪者だと片付ける。ここでナレーションが入り、「私」はこの女性モナが最後の数週間に出会った人々にインタビューして、その足跡を辿った、と語る。ネタバレしたからどうという作品でもないが、一応御注意。

 ナレーションは冒頭だけで、この「私」が何者なのかは最後まで明かされないが、アニエス・ヴァルダ監督自身が務めているので、モキュメンタリー的と言える。またモナの生前の場面と、「目撃者」たちがインタビューに答える場面の区別が不分明であり、毎回ではないが、モナが去った後、それを見送った目撃者が、そのままカメラに向き直り、姿の見えないインタビュアーに語り掛け始めたりするので、メタフィクションの要素も含んでいる。

 キャンプ道具を背負って一人で旅するモナは、「珍しい存在」として人々に強い印象を与える。しかしなんらかの影響を与えるほどではない。その点で、彼女は鏡のようだ。
 それは観客にとっても同様で、彼女を社会への反抗者だとして、その末路を犠牲者として同情するのも、あるいは登場人物の幾人かのように、怠惰な落伍者と見做して自己責任論を振り翳すのも、あるいは彼女と出会った人々の反応を単純に男女で二分してジェンダー論を持ち出すのも(もちろん同じ放浪者でも男であれば、ここまで過酷な目には遭わないが)、いずれも彼女の一面しか見ていない。
 単純な解釈ができない、というかしたくない作品である。

 彼女のバックグラウンドは一切触れられない。冬とはいえ、たった数週間で坂を転がり落ちるようにボロボロになっていくので、放浪を始めてから実はそれほど長くないのだろうと推測できる程度である。
 回想(モナの生前)は、「私には彼女が海から来たように思える」というナレーションと共に冬の海から全裸で上がって来る彼女から始まる。だからこの物語は寓話で、彼女は実際に鏡としての役割を負わされているのかもしれない。寓話は寓話として明示してほしい派なので、その点、本作は冒頭からかなりはっきり示してくれるのでありがたい。

 ただしフランスの田舎の町や村、農場に暮らす人々やその家屋がやたらリアリティのある不潔さで、その中で不潔だ不潔だと評されるモナが、そこまで不潔に見えないのが、かなりノイズになった。確かに衣服は汚くて傷んでるし、髪はボサボサを通り越してベタベタしてそうだし、歯は黄色いし、手や爪も汚れがこびり付いている。しかしその割に、顔だけは汚れてない。洗ってる様子もないのに。肌が荒れてないのは 放浪期間の短さで説明がつくにしても、唇は短期間でも荒れるぞ。冬だし。
 ほかにも、爪がずっと短いままだとか(爪切りなんか持ってるはずもない。手のほうは嚙み千切ってるとして、足はどうなだ)、体臭がひどいと言及してるのは1人だけで、その1人も含めて、誰も悪臭に怯んでいる描写がないとか。いや、詳しい描写なんか要らんが、何しろ周囲の不潔さのリアリティ・ラインが高すぎてな。周りが小奇麗だったら、彼女は充分すぎるほど不潔なんだが。

 あと気になったのは、序盤のBGMが妙にぶちっと切れるとこくらい。中盤からはマシになったので、意図的な演出ではない。いい感じのストリングスなので、余計に気が散らされた。
 BGMではなく、劇中でラジオ等から流れているポップミュージックはどれもよかった。80年代のフレンチポップスは全然知らないんだけど(まあ、ほかの年代もあんまり……)、アメリカのポップスとは全然違うんだな。80年代のアメリカ映画だと、ほかの要素(脚本、演技、演出、カメラワーク等)は全部いいのに、流れてるポップスがクソダサくてクソダサくて、観続けるのが苦痛なことがままある。いや、80年代の曲でも、好きなのはあるけどさ。

 撮影だけでも相当過酷だったと思われるが、モナ役のサンドリーヌ・ボネールは67年生まれなので、撮影時17歳。パトリス・ルコント監督の『仕立て屋の恋』の時は、「若く美しい女」扱いなのが納得いかなかったんだが、本作では年齢相応に可愛い。作中ではすごく可愛い扱いだが、美的感覚の違いで納得できる範囲。
 ……って、『仕立て屋の恋』は89年だから、21、2歳? 35歳くらいかと思ってた……今、写真見てもそう見える。たった4年で17、8年分老けたんか。角張ったいかつい顔になってるのもあって、頭に巻いたふわふわのでっかいリボンがきっつ……
 で、主人公の仕立て屋(ミシェル・ブラン)は50歳くらいだと思ってたら、52年生まれだから、えっ、36、7歳!?

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